2019年のWeb広告を中心としたマーケティングを振り返る

令和のスタートとなった2019年。2019年のWeb広告を中心としたマーケティングを振り返ってみると、企業が消費者からの”信頼・共感”を得るために、発信する情報や場を適切に選ぶという流れが更に進展したと筆者は考えます。

いい商品・サービスを提供するだけでは売れない時代。そんな中自社を選択してもらうには、企業やサービスへの信頼・共感を獲得することが重要視されてきています。この考え方は数年前からのトレンドなのですが、2019年の出来事を振り返ると、これからのマーケティング活動において不可避な考え方なのではないでしょうか。

  • 2019年、糾弾された広告
  • 2019年、”信頼・共感”を得るための取り組み
    ①求められる広告の透明性に応える制度の広がり
    ②”ブランドパーパス”を伝える
    ③”ブランドパーパス”をよりユーザーに伝えるためのクリエイティブ
    ④よりユーザーの日常生活になじんでいく広告
  • まとめ

2019年、糾弾された広告

記憶にも新しく、驚かれた方も多いかと思いますが、12月にはディズニーのステルスマーケティング(以下ステマ)疑惑騒動もありました。企業よりも消費者との距離感が近いインフルエンサーに発信してもらうことで、「共感」を創り魅力を伝えようとしたのだと思います。しかし企業側のミスにより、消費者に不信感を抱かせる結果となりました。

また、8月にはリクナビのデータ販売騒動が話題に。就活サイト「リクナビ」の利用者である学生の情報を、本人の同意なく販売していたことが判明しました。これは広告、というよりも、提供サービスの話ですが、企業の個人情報の取扱いについて注目が集まった事例です。

これらの事例のように企業の情報発信についてネガティブな反応が見られた反面、ユーザーの”信頼・共感”を得るべく様々な取り組みがされた2019年でもありました。

2019年、”信頼・共感”を得るための取り組み

①求められる広告の透明性に応える制度の広がり

2019年は高まる広告の透明性への期待に応える取り組みが数多くされた1年でもありました。

プライバシー保護の強化として、規制が推し進められたcookie

Appleは2019年に入って散発的にプライバシー保護の仕組みを発表しました。

  • 2017年6月 ITP1.0導入の発表
  • 2018年6月 ITP2.0導入の発表
  • 2019年3月 ITP2.1導入の発表
  • 2019年4月 ITP2.2導入の発表
  • 2019年9月 ITP2.3導入の発表

ITP2.1までのアップデートのスパンと比較するに2019年に入ってからのアップデート数の多さがわかるかと思います。

審査の目が厳しくなる広告の質

広告配信プラットフォーム側も広告の質向上へ取り組む姿勢を見せています。

また、11月に開催されたアドテックでは、JAA(日本アドバタイザーズ協会)、JAAA(日本広告業協会)、JIAA(日本インタラクティブ協会)が連携して、広告の監査や認証を行うアドベリフィケーション組織「JICDAQ」を設立するというニュースも発表されました。

企業からの情報発信に対する世間の目は厳しく、Web広告配信の仕方をはじめユーザー情報の使用方法について透明性が求められています。

②”ブランドパーパス”を伝える

令和初の内定式の開催に合わせ、パンテーンは「#令和の就活ヘアをもっと自由に」プロジェクトを行いました。 2018年からスタートした「#HairWeGO さあ、この髪でいこう。」キャンペーンの第4弾として手がけられた本プロジェクト。パンテーンの商品を直接伝える広告ではありませんが、パンテーンというブランドが存在する意義から生まれたこの広告はメディアやソーシャル上で話題となり、「就活時の髪色」や「ブラック校則」について考えるきっかけになった方も多いのではないでしょうか。

この例のように、ここ数年、“ブランドパーパス(ブランドが社会に貢献する存在目的、社会課題に対してブランドがどのような姿勢で取り組むか)”を軸としたマーケティング活動がトレンドになっています。先ほど事例として挙げたパンテーンのようなヘアケア商品をはじめ、我々ユーザーの生活に関わる商品・サービスについて選択肢は数多く存在します。選択肢が多く存在するからこそ、価格や機能での差別化が難しくなり、よりユーザーの精神的満足が商品・サービスの決定に影響するようになりました。

生活者の意識や行動の変化を隔年で調査する「生活定点」調査(博報堂生活総合研究所)からの考察として、下記のような意見もあります。

機能的な品質へのこだわりが低下しつつあること、こだわりといっても、これでなくてはという頑固なものというより、ライトで移ろいやすいものになりつつある 株式会社博報堂コンサルティング『「高くても買う」消費者心理をつかめ!~デジタル時代の処方箋』

ユーザーの「精神的満足」、「こだわり」つまりは「信頼」につながるものが”ブランドパーパス”であり、「(機能として)優れている商品」を「安く」「大量に」売ることやそういった視点での情報提供が必ずしも商品・サービスの売上に繋がるというわけではないようです。そういった観点でどのような情報をユーザーへ伝えていくべきか、考えていかなければなりません。

このような状況を考えると、先ほどのステマ騒動(関係者間でのコミュニケーション不足による表記漏れ)や、リクナビ事件(プライバシーポリシーの記載漏れ)のような出来事が、どれだけブランドにとって大きな痛手となるかは想像に易いでしょう。

③”ブランドパーパス”をよりユーザーに伝えるためのクリエイティブ

“ブランドパーパス”のように、企業やブランドとしてのストーリを伝えるには静止画よりも動画が有効です。静止画に比べ動画の持つ情報量や感情への訴求力が高いからです。

2019年6月に発表された「世界の広告費成長率予測」によると、世界的な2019年の成長率予測は下方修正となったものの、日本国内で見ると上方修正となりました。デジタル広告が初めてテレビ広告費を上回るなど、依然としてデジタル広告の成長は著しいです。この伸びに一役買っているのが動画広告であり、ユーザーに訴求するクリエイティブとして有効視されていることがわかります。

2020年には日本での5Gサービスの開始が予定されており、動画というクリエイティブの訴求力自体が高まることが期待されています。

④よりユーザーの生活になじんでいく広告

2019年はユーザーからの信頼・共感を得るために、ユーザーの生活に溶け込み、よりユーザーが情報を受け取りやすいような広告がサービス化しました。

日々のエンタメへのリーチ

今年は動画配信プラットフォームTikTokが広告配信プラットフォームをリニューアルし「TikTok Ads」としてサービス開始をしました。以降、数多くの代理店がデータ連係やプラットフォーム連係を行うニュースが多く見られます。若者の間で流行り、彼らの日常と化しているTikTok。そういった場で広告配信をすることで彼らの日常に入り込んで情報発信をすることが可能です。TikTokに限らず、我々ユーザーが時間を費やす場は、同じスマホだったとしても多岐にわたるでしょう。そういった場にリーチすることで自然とユーザーが情報を享受できるようになります。

オフラインでのリーチ

電車内でのデジタルサイネージ広告やタクシー内に設置されたタブレットで展開される広告など、私たちは気付けば移動中に様々な情報を受け取っています。5月には窓ガラスをデジタルサイネージ化する技術の開発も発表されました。デジタルサイネージ広告の広がりにはハード面での環境整備が必要不可欠ですが、技術の発展により、私たちの日常生活により馴染んでいくことでしょう。

「ながら」ユーザーへのリーチ

2018年に日本上陸したYouTubeMusicなどをはじめ、音楽ストリーミングサービス市場が巨大化しました。このような音楽ストリーミングサービスは会員制定額サービスとして展開されることが多く、”サブスク”という用語が2019年の流行語大賞にノミネートされるなど、一般的に馴染みの深いものとなりました。

音楽ストリーミングサービスはいまや広告配信のプラットフォームとしても注目を集めています。音声広告の強みは「ながら」ユーザーへリーチできること。視線を集めずとも自然と消費者の生活の一部に溶け込むことができます。2019年の関連ニュースを振り返ってみると、大手代理店が音声広告サービスを開始したり、音声広告の制作・運用サービスも登場したりと、広告主が挑戦できる仕組みが整ってきています。

ユーザーの生活のポイントポイントに馴染むような広告サービスの普及により、ユーザーが自然に情報をすくい上げられるようになってきていることがわかります。

まとめ

自社の商品・サービスを選んでもらうためには、いい商品・サービスを作ること以上に、ブランドや企業として誠意あるコミュニケーションを通して信頼・共感を得ることこそが重要です。

情報収集の手段として、企業から配信されるメルマガの信頼度が高く、ユーザーはメルマガに回帰しているという考えも出てきています。華々しい最先端の技術を使うことよりも、ユーザーが享受しやすい所に適切な情報を出すということが重要ということですね。

本記事内でご紹介したもの(ITP対応や動画広告など)について、弊社はお客様よりご相談を受けることも多く、それらを解決するシステム開発やツールの提供をしていることもありますので、お気軽にお声掛けください。